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転職ノウハウ

転職した後で「失敗したかも」と思った時どうすべきか

転職に際しては、既に社会人としてそれなりの経験を積み、業界内で一定の情報収集もしているはずだから、 上辺の話しかしないリクルーターや会社説明会しかない新卒とは違って失敗する確率は少ないはずだ。 にもかかわらず、実際には「こんなはずじゃなかった」というような感想を事後に抱く人が少なくない。

というわけで、今回は転職者が直面するギャップと、その処方箋についてまとめてみたい。 既に後悔しているという人はもちろん、これから転職を考えているという人にも参考になるはずだ。

100%の即戦力者などそもそも存在しない

筆者が強くアドバイスしておきたい点は、そもそも日本において、 別の会社に移って即100%戦力になるような人なんていないという事実だ。 そうなる理由は簡単で、通常の日本企業は中途採用を前提とせず、自社に特化した形で人材育成をしているから。

というと「うちは中途採用がメインです」なんてことを言う中小企業の人も多いとは思うが、 きっと給与体系は属人給の一種で、勤続年数がベースの職能給であるはずだ。 ということはやはり職務(能力)ベースで人を入れ替えていくという発想はなく、 社内の仕事は何でもこなすゼネラリストを育てるというコンセプトが根付いているわけで、 意図していなくても立派な終身雇用型人材育成スタイルなのである。

ともかく、そうして各社内でガラパゴス的に育った人材は、例え同じ業界の同じ職種であったとしても、 会社が変われば必要なスキルや業務スタイルは大きく変わることになる。

筆者自身、担当事業部のマネージャーと二人三脚で入念にスキルチェックして内定を出したにもかかわらず、 入社後に「ついていけない」「業務スタイルが合わない」といった理由で離職されるケースを多く経験している。

結局のところ、大手から中小まで、転職がもっと一般的になり、各企業間で職務に対する市場価格が成立するくらいに業務スタイルが共通化するまで、 転職には一定のストレスとそれを乗り越えるパワーが要求されるはずだ。 だから、最初は自分の職歴が通用しないのが当たり前だと思って、半年くらいは修業のつもりで精進するしかない。

では、それを乗り越えられる人と乗り越えられない人の差はどこにあるのか。 最も重要な素養は、仕事に対する能動的な姿勢だというのが筆者の意見だ。

ルーチンワークだけ惰性でこなす、指示があるまで自分からは動かないといった癖の抜けない人は、 どれだけ職歴が適合しても、新天地で伸び悩むケースが多い。逆に、多少畑違いではあっても、 常に主体的に課題を見つけて業務に取り組む習慣のある人材は、中期的にはとてもフィットし、 戦力になっているものだ。

筆者自身、常にそうした姿勢は意識してキープするよう心がけている。 例えば、同じようなプレゼン資料の使いまわしをすれば確かに労力はかけなくても済むが、 常に顧客のニーズを意識していると、必ず新たな発見なりアイデアが浮かんでくるものだ。 そして時にそれが思わぬ成果につながることもある。

普段からそうした姿勢を身に付けておくことこそ、転職で失敗しない最大のポイントかもしれない。

もう一度、転職理由を整理する

とはいえ、ギャップを乗り越える以前に、完全に転職先そのものを間違って選択してしまうこともある。 転職への焦りや現在の仕事への不満などの感情が交じって冷静な状況判断ができなかったケースだ。

それまでろくなマネジメントがされていなかった若手が、 「中途採用担当や転職コンサルからちょっと評価されるコメントをもらう」→「自分は高く評価される人材だと早合点する」→ 「転職してみればなんてことのない普通の扱いだった」といったケースが典型だろう。

そうした場合は、どのみちもう元のさやには戻れないのだから、開き直って、 もう一度自分がなぜ転職しようと思ったのか論点整理をするしかない。なにせ一度余分に失敗したわけだから、 何が論点かはより鮮明になっているはず。それを生かすことができるなら、その失敗は決して無駄ではないと筆者なら考える。

筆者の経験で言うと、中途半端に居心地の良い職場に移るより、最初の転職で大コケした人間の方が、 長い目で見ると面白いキャリアを形成できているように見える。

例えば「大企業は仕事がつまらないから」という(よくありがちな)理由で安易に新興企業に転職した知人は、 結局人から与えられる仕事は突き詰めればつまらないものだと理解し、30代で起業して今に至っている。 同様に、最初の転職でコケても、課題をより明確に認識できた結果、上手くリカバリーできている人間は少なくない。

逆に、なぜ自分は転職しようと思い、なぜ失敗したのか、 その現実に向き合わないままに再び転職活動に乗り出してしまうことは、“ジョブホッパー”への第一歩となるに違いない。

できれば3年は頑張った方がいい理由

さて、そうしてあれこれ試行錯誤した結果、それでも最終的に再び転職するという結論になったのなら、 それも一つの立派な決断だろう。ただし、どんなに合わない職場でも、できれば3年は転職先に籍を置いた方がいいというのが筆者の意見だ。 理由は、3年未満の再転職はその後のキャリアに与える負の影響が強すぎるためだ。

残念ながら、日本は今でも終身雇用的カルチャーが根強く残っていて、新卒を採っていないような企業であっても 「長く勤続してきた人間ほど勤勉で見どころがあるに違いない」といったモノサシを持っている。 3回以上の転職を敬遠する人事担当も少なくはない。

そういう価値観を持った人事を黙らせるには、自分はきちんと職歴を積んだうえで、 あくまでさらなるキャリアアップの一環として転職に臨んでいるのだという物語を見せる必要がある。 そのためには、一つの職歴とみなされる期間である3年は在籍するべきだろう。

中には「3年待つと35歳を超えてしまい、年齢的に選択肢が減ってしまう」と心配する人もいるかもしれない。 3年未満で転職するのと35歳オーバーで転職するのと、どちらが転職の選択肢が多いかはケースバイケースだが、 筆者なら35歳手前で明らかに転職失敗して駆け込み応募してくる人材よりも、 35歳オーバーだが転職先で得た納得できる答えを引っ提げたうえで門を叩く人間の方に好印象を持つ。

現在、日本企業の人材ニーズは、かつての「無難に組織に染まってくれる人材」から「組織を変革できる人材」へと緩やかに変化しつつある。 そうした会社が、前職を逃げ出してきたのがバレバレな人間と、納得できる物語を持った人間のどちらを欲しがるかは明らかだろう。

今回のポイント
日本企業はまっさらな人材を自社でゼロから育成するスタイルなので、基本的に100%即戦力という人はいない。最初はギャップがあるのが当たり前と思って努力するしかない。
普段から主体的に業務に取り組む習慣を付けている人間ほど適応力は高い。
最初の転職で失敗しても、なぜ失敗したかを冷静に論点整理できれば、それは決して無駄な失敗ではない。
転職先の選択に失敗しても、できれば3年は在籍し、一つの職歴とした方が長い目で見れば武器になるはずだ。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。