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勤続年数や平均賃金で会社を選んではいけない理由

これから自分が働く会社を選ぶ際に、どういった基準で選ぶべきだろうか。知名度で選ぶか、理念で選ぶか。もちろんそうしたものも重要ではあるのだが、とりあえずおおまかにスクリーニングするうえで、多くの人が重視するのは平均勤続年数や平均年収といった数字だろう。

実際、経済誌の企業ランキングを見ても、この2つの数値は必ず顔を出す。勤続年数と平均賃金の高い会社をずばり“ホワイト企業”と銘打っているものまであるほどだ(じゃあベンチャーは全部ブラックなの?と筆者は素朴な疑問を感じるが)。

だが、この2つの数字には、決定的に欠けているものが1つある。それは“時間軸”という概念だ。それをしっかり踏まえたうえで検討すれば、“平均勤続年数”や“平均年収”といった数字で会社を選ぶのは、むしろ大きなリスクが伴うだろうというのが筆者の意見だ。

一方的に搾取されるリスクも

世の中には、成果がダイレクトに年収に反映されやすい組織と、反映されにくい組織がある。仮に前者をダイレクト型組織、後者を年功型組織と呼ぼう。1シーズンごとの成績に基づいて翌年度の年俸が決まるプロスポーツは前者の典型で、年俸制の外資や一部の新興企業もこれに近い。

一方で、そんなに成果がアップダウンするものではなく、むしろ堅実にこなすことが要求される公務員や職人などは後者が中心となる。勤務態度や年功を重視すれば、そちらの方が合理的だからだ。

そして、多くの日本企業もまた、成果がダイレクトには反映されず、年功に応じて少しずつ加算される賃金制度を採っている。これは日本の基幹産業が長く製造業であり、職人を重視するカルチャーが色濃く残っていた結果だろう。

さて、時間軸の長さの違いを考慮すれば、この2つの組織における平均年収の意味がまったく異なることは明らかだろう。ダイレクト型組織の“平均年収”は、その組織で実際に働く人間が受け取れる報酬にほぼ同じと言っていいだろう。これから入社する人間にとって、そのまま判断材料として良い数字である。

だが、年功型組織の“平均年収”は、ひょっとすると「20年以上働き続けた人間がもらっているご褒美の金額」かもしれない。今から入社したところで、20年後にそれだけの金額をもらえる保証などまったくない数字である。

そう考えると「勤続年数と平均年収の高い会社」を選ぶことがどれほど高リスクか明らかだろう。確かに、その会社で働く中高年にインタビューすれば、「うちは人に優しく、何十年も働き続けるだけの価値のある職場ですよ」とでも言うに違いない。でも、これから入る人の眼前には、まったく違う風景が広がっているはずだ。

「確かに、四季報で見るとうちの平均賃金は日本トップクラス。でも我々30代は入社以来ベアもほとんどなく、度重なる賃金改定で昇給額をかなり抑えられている。『いったい誰があんなにもらってるんだ』と同期同士でいつも不思議がっている」というような話は、歴史ある大企業からしょっちゅう聞こえてくるものだ。

ちなみに、筆者自身、その時間軸に伴うギャップに気づいたことが、最初に独立を決意したきっかけだった。

90年代後半、入社2年目あたりの若手人事部だった筆者は、当時の昇給やベースアップの実施状況、そして人事制度の改定プロセスなどを通して、自分たち若手の賃金カーブをさっくり試算してみて、それが当時の55歳(今の70歳くらい)世代と比べて3割低くなる現実に気づいた。この先、日本経済がさらに低迷したり、会社の業績が傾けば、下がる割合はさらに大きくなる。

日本の労働法制では、一度上げてしまった給料をそう簡単には下げられない。だから、中高年の高給を温存する一方で、若手の昇給を抑え、10年以上のスパンをかけて賃金水準を引き下げるしかない。その調整プロセスに自ら携わったことが、筆者が終身雇用型組織に見切りをつけた理由である。誰だか知らないオジサンを養うために自分の人生を捧げるほどバカらしい話もないだろう。

15年経って振り返ってみて、あの時の判断は正しかったように思う。ただ一つ予想外だったのは、当時筆者が携わっていたような「若手の昇給を抑制して10年かけて賃金水準を引き下げる」ことを他の多くの日本企業もやった結果、日本全体でデフレが深刻化したことくらいだ。

勤続年数の長さではなく、平均年齢の低さで選べ

では、勤続年数や平均年収ではなく、どういった指標で会社を選ぶべきか。筆者なら、賃金は特にこだわらず、平均年齢(もしくは平均勤続年数)の低さと、ここ最近の業績、くわえて可能であれば新卒採用数の推移をチェックするだろう。

実は、日本企業では35歳までの賃金水準はそれほど大きな差がつかない。重要なのは35歳以降にどこまで伸びしろがあるかで、それを考察するうえで重要な指標が平均年齢と業績推移だ。

平均年齢が低ければ、その会社はまだ若く、養わねばならない年功者がそれほど多くはないということを意味する。新卒採用数の推移を見れば、その会社がどれだけ長期的な視野を持っているかも分かる。既存社員の人件費が重いからといって新規採用は抑制するというような会社は、これから沈むことはあっても浮上することはまずないからだ。

たとえリストラや追い出し部屋のようなものを作って無理やり平均年齢を下げていたとしても、筆者ならそういう会社の方を評価する。なぜなら、抜本的な改革に手を付けず、高給取りを多く抱えたままの組織より、痛みを伴う改革を実行している組織の方が10年後に生き残る可能性が高いためだ。

最後に実例を紹介しておこう。昨年、A社とB社という日本を代表する半導体企業2社が、あいついで経営再建に乗り出して話題となった。

とはいえ、両者の状況は対照的で、A社は米国企業の傘下に入って再スタートを切る一方で、B社は度重なるリストラを実施するも、現在8期連続の最終赤字を継続中だ。要するに、既に再建の軌道に乗ったA社と、いまだ出口の見えないB社という具合に、見事に置かれた状況が異なっているわけだ。

両社を比較すれば、面白い違いが見えてくる。平均年齢35.6歳と若いA社に対し、B社は43.9歳と、かなり年齢の高い会社だ。平均年収もB社の方が50万円ほど高い。いかに勤続年数やら平均年収やらがあてにならないか明らかだろう。

「わが社は積極的にリスクを取ります」「若い力を必要としています」等、聞こえの良いキャッチフレーズは多いが、本音は平均年齢や新規採用数を見れば透けて見えるというのが筆者の意見だ。

今回のポイント
組織には、成果がダイレクトに報酬に反映される組織と、長時間経って反映される組織の2種類ある。単純に平均年収で評価していいのは前者であり、後者の場合、むしろこれから入社する人間にとって不利になるリスクもある。
会社をスクリーニングするのであれば、平均賃金よりも平均年齢、新規採用数の推移、直近数年分の業績を見るといい。一般的な日本企業において処遇に差が出るのは35歳以降であり、そこからの伸びしろを測るには、そうした指標の方が使いやすいためだ。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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