転職ノウハウ

「働き方改革」は転職者にとってプラス?

昨年、働き方改革が政府の重要課題と位置づけられるようになって以来、各企業においてさまざまな取り組みが実施されている。筆者の知る限りでも、残業月30時間以内といった一律の数値目標を掲げたり、ノー残業デーを毎週もうけたり、有給取得率の引き上げを管理職の数値目標に入れたりといった企業が目につく。

ただし、そのほとんどは単なる「残業抑制キャンペーン」であり、生産性の向上や本当の意味での働き方の見直しにつながっているケースは、残念ながらまだ多くはない。

そもそも、本来の働き方改革とはどうあるべきなのか。そして、それは転職市場にどういった影響をもたらすのだろうか。良い機会なのでまとめておこう。

そもそも「働き方改革」とは何か

最近になってようやく一般的に知られるようになったが、日本の労働生産性はお世辞にも高いとは言えず、時間当たりでみても労働者1人当たりでみても主要先進国中最下位という状態が40年以上続いている。※1

働き方改革の本丸はこの数字を引き上げることであり、ワークライフバランスの推進や労災防止というのは結果としてついてくるものだ。

一律の残業上限やノー残業デーといった試みは、ワークライフバランスの推進・労災防止という意味では効果的かもしれないが、生産性向上につながるとは言い切れない。

では、必要な処方箋はどういったものか。従業員一人一人の担当業務範囲をあらかじめ明確にした上で、それを実現するための一定の裁量を付与するというものだ。これは日本企業で一般的な職能給よりも、他国で一般的な職務給に近い。

このように書くと実現ハードルが高そうに聞こえるかもしれないが、実際には中間管理職のマネジメントでも十分に対応は可能だ。あらかじめ部下へ適切な業務の割り振りを行い、その成果をきっちりと評価するだけで、目に見えて無駄は改善されるものだ。

各従業員は自身の担当業務の範囲が明確になり、裁量も与えられることで、ゴールに向かって効率的に業務を進めることができる。また、知恵を絞って、要求されるアウトプットの質を高めることも可能となる。

現状の職能給では担当範囲は極めて曖昧なため、上記のようなことを行うインセンティブはとても弱い。「早く終わっても追加で仕事が降ってくる」「夕方まで適当に仕事をし、日が暮れてから本気を出す」みたいな働き方の根っこにあるのは、まさにこうした“曖昧さ”なのだ。

※1(公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2018」より)

働き方改革は転職市場にはプラス

では、働き方改革の実現は転職市場にはどう影響するのだろうか。筆者は2つの理由から、転職市場のさらなる拡大を強く後押しすることになるとみている。

まず1つ目に、企業は残業より採用増で対応しようとするため、単純に求人そのものが増えるだろう。特に労働組合で長時間残業が可能な枠組みを取り決めてきた大企業ほど、手法の見直しを迫られることになるはずだ。

2つ目に、働き方改革について正しい理解が広まり、業務範囲の見直しが進めば、それ自体が個人の転職ハードルを引き下げるはずだ。「上司から与えられる仕事はなんでもこなしていました」ではなく「〇〇の仕事を専門に担当していました」と言えるようになるためだ。

人材紹介会社に登録してエージェントに職歴の中からニーズのあるものを見つけてもらうことをよく“キャリアの棚卸し”というが、それと同じことを普段から職場で行うようになるだろう。

現在の日本の労働市場は終身雇用から転職前提の市場への過渡期にあると筆者はみているが、働き方改革はその一里塚となるに違いない。

今回のポイント

働き方改革とは、効率的に働いたり付加価値を高めたりすることによって、労働生産性を高めることだ。ノー残業デーや単なる残業上限の引き下げはアプローチの1つにすぎない
「業務範囲の明確化」と「従業員への権限委譲」といったマネジメントだけでも、働き方改革を一定程度は実現可能だ。
中期的な視点で見れば、求人増と人材流動化を後押しする働き方改革は、日本における転職市場の拡大をもたらすだろう。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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