転職ノウハウ

転職先について悪い話を聞いた時にどうすべきか

SNSによる個人の情報発信が盛んとなった現在、従来は日の目を見ることがなかった生の職場情報が、電脳空間を自由に流通している。そういう事情もあってか、筆者自身、個人や記者といった人たちから、やけにリアルで生々しい質問をされる機会が増えたように思う。例えば以下のような質問だ

「〇〇社って上司が退社するまで部下は全員待機って、本当ですか?」 「〇〇社は残業代を申請するとマイナス評価されるって聞いたんですけど」

ちなみに、そういう良からぬ噂について聞かれた場合の筆者の回答は決まっていて、ほとんどの場合「わかりません」一択である。というのも、そうしたネガティブ情報の出元は一人かせいぜい数人の管理職のマネジメントから生じるものであり、組織全体の方針とは無関係なケースがほとんどだからだ。

もちろん、ネガティブ情報の出元がせいぜい数人ではなく一定数の管理職から生じている場合はリスクがあるかもしれない。しかし、それが事実かどうかは実際に入社してみないとわからない。だから、回答としてはわからないと言わざるを得ないということだ。メディアの中には、一人の元従業員へのヒアリングだけを基にして「〇〇社の社風はこうだ」などと平然と解説する向きがあるから恐ろしい。

日本社会は基本的にネガティブ情報のニーズが高い

一方で、システムとして「30歳で管理職登用」や「(社内FA制度等を通じて)社員の主体的なキャリア形成を支援」といった形でカラーを打ち出しているケースについては、組織全体に関わるファクトとしてコメントができる。企業のネガティブ情報に接した際には、こうした「個人のマネジメント発か、組織のシステム発か」といった視点を持てば、有益な情報だけを拾えるはずだ。

そもそも、日本社会にはネガティブ情報へのニーズがとても強いという傾向がある。理由は、基本的に日本が減点社会であり、リスクを回避することがリターンを追求するよりも重視されているためだ。こういう状況では、取るに足らないようなネガティブ情報でも大きなインパクトをもって受け止められてしまうものだ。

例えば「あの会社には厳しいノルマ制があるが、一発当てるとボーナス1千万円も支給されるらしい」という情報に対して、読者はどういう反応を示すだろうか。おそらく過半数の人は“厳しいノルマ”というキーワードに過剰反応し、“ボーナス1千万円”という数字は軽く流すのではないか。最近だと“ノルマ”や“降格”といったキーワードだけでブラック企業的なイメージを持つ人も少なくない。

こういう土壌ができてしまった背景には、やはり年功序列文化が社会の隅々まで浸透してしまったことがあるのだろう。これといった失点さえなければ勤続年数に応じて出世昇給していく年功序列制度は、究極の減点主義だ。そういう組織の中で生きていこうと思うなら、リスクの排除こそが最重要課題となるのも仕方のないことかもしれない。ただし、そうした考えそのものが、現在では大きなリスクだというのが筆者の見方だ。

優秀者と非優秀者の一番の差は“リスク許容度”

「リスクを避け、真面目に言われたことだけやっていれば出世できた」時代があったとしても、それは高度成長期の一時期だけのことだ。現在ではもう真面目に座っているだけでは人並み以上には評価されないし、リスクを取らないかぎり自分たちの親世代のような生活水準は望めない時代である。本来、リスクとリターンは比例するものだから、リターンが欲しいならリスクを積極的に引き受けるしかない。

そうした中、出所のよくわからないネガティブ情報やリスク情報に踊らされて企業を絞り込むことは、自らリターンへの近道を閉ざすに等しい行為だろう。実は筆者は、優秀な人材とそうでない人材が分かれる分岐点は、このロジックを理解しているかどうかだと考えている。

転職に際し(冒頭のような質問はもちろん)社風の厳しさや降格制度のようなリスクを気にかける人は、その時点でマインドが後ろ向きになっていると思われる。個別の事情があるだろうから絶対に転職するなとは言わないが、良くて現状維持レベルの転職にしかならないだろうから、現在の職場でやれることをやった方がいいと筆者ならアドバイスする。

一方で本当に優秀な人材というのは、ネガティブ情報やリスク情報よりも、若手の登用例や処遇のメリハリについての関心が高いものだ。

転職でワンランク上がりたいのならある程度のリスクは許容すること、そしてリスクを回避するのではなく乗り越えることのできる基礎力を磨くことにこそ注力するべきだろう。

今回のポイント

企業のネガティブ情報に接した際には、「個人のマネジメントから生じたものか、組織のシステムによるものか」という視点を持てば、有益な情報だけを拾えるはずだ。
今の時代、リターンが欲しいならリスクを積極的に引き受けるしかない。出所のよくわからないネガティブ情報やリスク情報に踊らされて企業を絞り込むことは、自らリターンへの近道を閉ざすに等しい行為だ。
転職で上に上がりたいのならある程度のリスクは許容すること、そしてリスクを乗り越えることのできる基礎力を磨くことにこそ注力するべきだ。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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