転職ノウハウ

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転職の際にトラブルはできるだけ避けたほうが良いワケ

筆者は基本的に、個人は組織に対して従属ではなく対等の関係を築くべきだし、それこそが個人のベネフィットを最大化する最善の方法だと考えている。筆者が常日頃言っているキャリアデザインとはそのための手段だ。

とはいえ、対等だからと好き勝手に振る舞うのも現状ではどうかと考えている。特に転職に際して、どうせ辞める身だからと言いたい放題やりたい放題するのは、後々まで尾を引く可能性が強い。最近、このあたりの微妙な温度差から生じるトラブルを見聞きする機会が増えたように思われるので、一度まとめておこう。

「良き村人」はスキルと同じくらい重要な要件

終身雇用ベースの日本企業の場合、新たに人を採用するに際して、単純にスキルだけで判定するのはまれである。というのも、どんなに専門性やノウハウを持つ人材であっても、長く濃密な人間関係を結んでいかねばならない以上、組織とうまくなじめる人となりであるかどうかも重視せざるを得ないためだ。

求められる“人となり”は組織によって違うので一概には言えないけれども、強く敬遠されるマイナス像は共通している。それは“組織のためという視点が持てず、和を乱すタイプ”だ。というのも終身雇用制度というのは一種の身分制度であり、組織のために尽くすことを前提に個人が強く守られるというバーター関係で成立しているためだ。

筆者はそうしたカルチャーを親しみを込めて“ムラ社会”と呼んでおり、終身雇用型の企業の9割は、今でもそうしたムラ社会カルチャーを濃厚に残しているというのが、筆者の感覚だ。

「それはさすがに20世紀までの話だろう」と思う人もいるかもしれない。でも、ちょっと思い出してみてほしい。21世紀になってからも、長年にわたる粉飾決算や燃費データ偽装を行っていた大企業がいくつか発覚したではないか。メディアにも、10年以上にわたり自社の誤報問題を放置し、社長自ら謝罪に追い込まれた大手新聞社が存在する。

それら大企業に共通するのは、強固な終身雇用制度を維持していて、社員が組織に対する強力なステークホルダーとして一心同体だったという点だ。時に不正隠避の温床ともなり得るようなムラ社会カルチャーは、依然として日本型組織の中に強く残留しているということだ。

そういう状況下で、退職するとはいえ元の会社とけんかをするのはあまりお勧めできない。課題と改善点をまとめて会社側に提出するくらいなら問題ない。でも上司と感情的に口論をしたり、引き継ぎをロクにやらぬまま一方的に退職日を決めたり、たまっていた有給休暇を一方的に全部申請したり…、そうした行為は仮に転職先に発覚した場合、「組織の和を尊重できない人材だ」とのレッテルを貼られかねない行為だ。

実際、今でも一部の企業は中途採用者の採用に際して前職に何らかの確認を行っているし、狭い業界内であれば情報は自然と共有されるものである。前職での辞め方がきれいでないという理由で内定寸前までいったのに取り消したというケースを、筆者自身も複数見聞きしている。

「立つ鳥跡を濁さず」ということわざは、キャリアデザインを考える上でもとても有益な考え方と言えるだろう。

「労働者の権利」なるものも慎重に付き合うべき

同様のトラブルで、未払い残業代などの支払いを求めて、労働弁護士や社外ユニオンと組んで会社を訴える向きも最近増えている。それ自体を否定はしないけれども、あくまでムラ社会である終身雇用型組織の一員として今後もキャリアを積んでいこうと考えるなら、筆者はそうしたアクションには慎重になるべきだと考える。

一般の人事担当者なら、やはり会社と訴訟で争った人間の採用には及び腰になってしまうものだ。労働者として正当な権利の行使をした人間を避けるとは何事かと思う人もいるかもしれないが、採用する側からすれば、例えば未払い残業代の支払いを求めた労働者がきちんと時給分の生産性を上げていたかどうかは分からない。
(極論すれば椅子に座っていただけかもしれない)

分からない以上、会社と争ってお金を引っ張りましたという人の採用には二の足を踏まざるを得ないものだ。

筆者もこうした点に矛盾を感じないではないものの、やはり日本企業は終身雇用であることから、採用スタンスは極めて保守的にならざるを得ない。65歳まで雇用しなければならない以上、うっかり問題のある人間を採用しました、では済まないからだ。

こういう企業内のロジックはあまり理解されておらず、労働弁護士の中には積極的に未払い残業代などを訴えろとアピールする人も少なくない。なるほど、たしかに彼らにとっては格好の飯の種にはなるだろうが、訴えた本人のその後の就職先の選択肢は劇的に狭まることだろう。一時的にお金が取れたとしても、長い目で見れば明らかにマイナスに違いない。

会社のマネジメントに問題があるのなら、上司と交渉するなどし、まずは社内での穏便な解決を目指すべきだろう。それでも解決しない場合、筆者ならくよくよせずにあっさり転職してしまうことをお勧めするが、どうしてもけんかしたいというのなら、その後のキャリアデザインを踏まえ、しっかり損得を計算した上でするべきだろう。完全に実力主義の組織に移るか自分で起業するのでもない限り、筆者なら安易なけんかはお勧めしない次第だ。

今回のポイント
21世紀の今でも大手企業による組織ぐるみの粉飾やデータ偽装問題が発生している点からも、日本企業のムラ社会カルチャーはいまだに健在である。
終身雇用ベースの日本企業の場合、スキルや専門性に加えて「良き村人」であるかどうかが採用の重要な要件となる。会社とけんか別れしてしまうと、そのほかの日本企業からも「和を乱すタイプ」というレッテルを貼られかねず、そのようなタイプはもっとも敬遠されることになる。
会社を訴える向きも増えているが、訴えた本人のその後の就職先の選択肢は狭まり、一時的にお金が取れたとしても、長い目で見ればマイナスになるだろう。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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