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好きなことを仕事にする意味

筆者は仕事柄、以下のような質問をいろいろな人から受ける。

「好きなことを仕事にするべきですか?それとも仕事は仕事と割り切って、与えられた仕事に真面目に取り組むべきですか?」

答えはとてもシンプルで、まず「生産性を上げて第一線でキャリアを磨きたい」というハイクラス志向の人材には、できるだけ好きな業務や関心のある業種に携わる努力をするようアドバイスしている。というのも、個人の能力は好きなことに取り組む際に最大限発揮されるためだ。

では、ハイクラスへの志向はそこまででもないという人はどう仕事と向き合うべきか。こちらも答えはシンプルで、今の仕事と“本当にやりたい仕事に移るコスト”を比べて、自分で判断すれば良い。それを一番分かっているのは自身のはずだから、第三者がとやかく言う問題ではないだろう。

ただし、判断材料としていくつかアドバイスしておくべき点があるのも事実だ。というわけで、今回は“好きなこと”と仕事の線引きについてまとめておこう。

「仕事は仕事」という先人のアドバイスはあまり当てにはならない

実は「好きなことと仕事は別ものであるべき」という価値観は、戦後にできたわりと最近の価値観であり、根っこにあるのは終身雇用制度だと筆者は考えている。というのも終身雇用型の組織で働く以上、各従業員は雇用が保証される反面、会社都合で配属先が決められ、人手不足の事業所にいつでも転勤する義務を負うことになるから「私はかくかくしかじかのキャリアが欲しい」といったエゴは捨ててもらう必要があるためだ。

もっとも、そうした価値観が浸透したのは、実際それが割に合った時代がそれなりに続いた結果だろう。ここで「割に合った」と言ったのは、以下の2つのメリットがあったからだ。

1. 仕事は仕事と割り切って、割り振られた仕事をきちんとこなし続ければ、マイホームを買ったり子供を進学させたりするに十分な生活給を保証され、一定の社会的ステータスも獲得できた

2. 自分の好きなことは定年してから“第二の人生”で向き合うことが可能であり、そのための準備期間としての意義もあった

企業の幹部に出世して定年退職し、現在は退職金でキャンピングカーを購入して悠々自適の生活を送っている団塊世代あたりを想像してみてほしい。

ただし、2016年現在、状況は20世紀とは大きく変わってきている。まず、与えられた仕事を一生懸命に勤め上げても、組織が報いてくれる保証はなくなりつつある。それどころか、大手であっても追い出し部屋や早期退職といった形で“リストラ”の対象になりかねない時代だ。

また、定年の概念自体も大きく変わりつつある。実は定年制度そのものは終身雇用とセットで戦後に普及したもので、80年代までは一部の大手企業にのみ存在し、それも55歳あたりに設定されたものが主流だった。

だが、94年に60歳定年が義務化され、2013年からは老齢厚生年金(報酬比例部分)の65歳への引き上げに歩調を合わせる形で65歳までの雇用延長も始まっている。

こうなると、先に挙げた2つのメリットは完全に消滅とまでは言わないけれども、多くの人にとってはだいぶ薄れてしまっているはずだ。

たとえ周囲に、キャンピングカーで自由気ままに旅をしつつ「将来は僕のようになりたかったら言われたことを何でも素直に続けなさい」というリタイア世代がいたとしても、彼らのアドバイスは話半分くらいに聞き流した方がいい。

さらに言えば、筆者はこの先、さらに年金の支給開始年齢の引き上げが実施され、現在の50歳未満は最終的には70代まで働き続けなければならなくなると見ている。
(実際、厚労省内の審議会ではしばしば年金支給開始年齢の再引き上げが言及されている)

男性の健康寿命(健康に体が動かせる年齢)が71歳くらいなので、こうなるともはや仕事=人生そのものと言っていい。“第二の人生”の完全なる消滅であり、割り切って仕事をこなすということは“人生そのものを受け身のまま割り切って過ごす”ことと等しくなる。

もう一度繰り返すが、好きなことを仕事にするか、それともあくまで仕事は仕事と割り切るかを決めるのは、あくまで自分自身であるべきだ。だがその判断を下すにあたって、上記の環境変化はしっかりと踏まえるべきだろう。

キャリアデザイン上手とは、手の届く範囲で好きなことを見つけられる人

では「好きなことを仕事にしたい」と考えた際に、何から手を付けるべきだろうか。とりあえず退職願を提出し、作家を目指して部屋に籠もったり、プロスポーツの選手を目指して練習に明け暮れたりするのか。

そういうレアケースは別にして、普通の人は手の届く範囲からスタートすべきだろう。先に筆者は「生産性を上げたいなら好きなことを仕事にした方が良い」と書いたが、このロジックは少なからぬ企業も理解し、さまざまな形で従業員が好きな仕事に移れるような仕組みを導入している。

ここ10年ほどで社内公募やFAといった制度を導入した企業は少なくないが、それらはみな従業員に仕事を好きになってもらうためのツールなのだ。積極的に利用しない手はない。

また、そうしたツールが公式には存在しなくても、上司や人事部門に掛け合って異動を勝ち取る機会もここ10年ほどでぐっと増えたように思う。これは筆者の感覚だが、出世や終身雇用の保証がない以上、できるだけ従業員個人のキャリアデザインの要望は満たしてやりたいと考える企業が増えたためと思われる。

筆者の経験上、優秀なビジネスパーソンはほぼ例外なく自らの専門分野が好きなタイプばかりだが、最初からその仕事が好きだったという人にはほとんど会ったことがない。むしろ、仕事を通じて関心を持ち、より業務内容にコミットする形で結果的に好きになったパターンがほとんどのように思う。

そう考えると、現在の部門や関連する業務の中から関心のあるものを見つけ、そこに潜り込む努力をすることは難しい話でもないはず。「好きなことを仕事にしろ」と言われるとなんだかハードルが高く感じてしまう人も多いだろうが、「まずは手の届く範囲で興味のあることに挑戦してみる」と聞くと、前向きになれる人も多いだろう。

日々の業務の中で受け身に徹するのではなく、興味の湧く仕事を見つけようとする姿勢こそ、キャリアデザインの第一歩だというのが筆者の意見だ。

今回のポイント
ハイクラスで勝負したいのなら好きなことを仕事にする努力は必須だ。なぜなら、好きなこと、興味のあることに携わる際に個人の能力は最大限に発揮されるからだ。
年功序列制度の形骸化と定年の延長により“仕事は仕事と割り切る”ような生き方は急速に意義を失いつつある。先人のアドバイスは必ずしも参考にはならない。
「常に興味のある対象を日々の業務の中から見つけようとする姿勢」こそ、好きなことを仕事にするための第一歩だ。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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