転職ノウハウ

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転職に備えてやっておくべきこと

転職系のサイトに連載しておいて何ではあるが、実は筆者は「転職なんて、しなくていいならしない方がいい」というスタンスだ。理由を一言で言うと、労働市場の流動性が低すぎるため、いろいろと無駄が多いという点に尽きる。職務が企業ごとにガラパゴスに定義されているため、スキルのうち転職でリセットされてしまう部分が少なくないのだ。

さらに言えば、そうまでして転職しても、キャリアデザイン的には失敗と思われるケースが少なくないというのも理由の1つだ。もちろん何が成功かなんて本人にしか分からないものだが、少なくとも成功ではないなと思われる転職の方が、現実には多数派である。

では、結論としては「何があっても会社にしがみつけ」というのが合理的で、転職サイトなんて利用するなというのが本稿の結論なのかと言えば、それは違う。「転職はしなくてもいいけどいつでもできる準備はしておけ」というのが筆者のスタンスであり、それはそのまま、転職を成功させる近道であり、同時に今の組織において出世する王道でもある。

というわけで、今回は慣れ親しんだ職場を離れるにあたって、やっておくべき“準備”について説明しよう。

マップとコンパスを準備する

転職という旅に出るわけだから、マップとコンパスは必須である。と言っても、何も東急ハンズに走れというわけではない。転職市場に打って出る前に、その案内図が必要だという意味だ。

転職する前に、まずは自分の身を置く業界全体がどうなっているのか、そして経済は今後どういう方向に流れていくのかを知っておく必要がある。このあたりは、きちんとリスクをとっているビジネスマンならごく常識の話だろうが(特に安定した大企業の社員などは)社内にしかアンテナを張っていないという人が少なくない。

新聞でも雑誌でも経済書でも何でもよいが、経済系のメディアにある程度目を通し、自分の仕事に関わりのある話題は意図的にチェックしておく習慣くらいは、早期に身に付けておくべきだろう。それを数年続ければ、きっと自分の中に俯瞰的な“マップ”ができているはずである。

マップとコンパスが揃ったらすべきこと

もちろん、マップができても、自分がその中でどういうポジションにいるのかが分からないと意味がない。それは座学では何ともならなくて、面倒かもしれないがとにかく人に会ってコミュニケーションをとるしかない。

同業他社の人と会った際、業務の進め方の違いや業界全体の話題について情報交換するのは基本中の基本だ。あとは異業種交流会や同期会にも顔を出して、なるべく幅広い会社、分野の人間と話をするといい。

同じく、それを数年継続できれば、きっと自分の職種はどういった位置づけで、その中で自分はどれくらいのポジションにいるかが分かるだろう。それが“コンパス”である。ここまでの段階で、自分の目的地と、そこまでの大まかな距離くらいは、何となく見えてくるようになっているに違いない。

人材価値には2つのモノサシがある

とはいえ、それだけではまだ足りないものがある。それは“実力”だ。ここで言う実力、つまり人材価値には2種類ある。1つは社内で高く評価されるが、労働市場では必ずしも評価されない社内価値だ。そしてもう1つが、社内ではいまいち評価されづらいけれども、労働市場では広く評価されうる市場価値である。

マップとコンパスをある程度の形にできた人なら、2つの価値の差は理解できているはず。以後は意図的に市場価値を伸ばす努力をするべきだ。と言って「そんなのはつぶしがきかない仕事なので自分はイヤです」と断るといろいろと障りがあるので、そこはマイルドに進めるといい。

ポイントとしては、市場価値につながる仕事には自分から手を上げつつ(それで自分は忙しいからというのを理由に)そうでない仕事は同僚に任せるといいだろう。社内的には評価される仕事なのだから、むしろ同僚からは感謝されるはずだ。

フォローしておくと、どんな仕事でも後に意外な形でキャリアに役立ったりするものである。だから、そうやって他人に振るのはよほどの場合に限って、基本は自分の中で優先順位をつけ、市場価値型の業務に注力しつつ、それ以外は効率化を優先するくらいのスタンスでもいいかもしれない。

また、このステージに入ったら、人材紹介会社に登録してみるのもいいだろう。転職コンサルタントというのは終身雇用ベースの日本社会にあって、幅広い業種に目が届いている稀有な職種である。登録者の市場価値を把握したうえで、評価される点と弱点をピンポイントで指摘してくれるはずだ。

準備を完了した人間ほど評価されるわけ

こうしてマップとコンパスを準備し、市場価値を意識して日々の業務に精進すれば、数年の後にはいつでも転職できる人材になっているはずだ。そして、恐らくは来るべき転職でコケるリスクも少ないだろう。

というのも、少なくとも筆者の見る限り、明らかな転職の失敗例のほぼすべては「マップかコンパスのないままあてどなく彷徨うか、実力的に大きなミスマッチを抱えたままチャレンジした結果」であるからだ。上記の準備をした人間なら、そのリスクはかなり小さなものとなっているに違いない。

そして、最後にとても重要な点を述べておこう。同じく、筆者の見たところ、このご時世に社内でしっかり評価され昇進もしている人間の多くは、実はこうした“準備”を意図的に行っているということだ。マップやコンパスを持っているということは、変化の激しい時代において社内でも評価される資質であるし、変革を生み出す刺激にもなるだろう。

何より、いつでも転職できるだけの実力を持った部下を、上司はむげには扱えないものだ。日本企業の多くが今も変わらず相対評価である以上、相対的に低い評価は「社内にしか居場所のない人間」に押しつけられるものである。

変な話、転職の準備をしておくことこそ、今の会社に長く勤めるコツなのかもしれない。本来優れた組織とは、社内価値と市場価値にギャップがほとんど存在しない組織であり、転職への準備とは、見方を変えれば、そのギャップを社員個人で埋めようとする努力と言えるだろう。上司や同僚に「転職するの?」なんて聞かれたら、胸を張ってそう答えることをオススメしておこう。

今回のポイント
転職の前に自分の頭の中にマップとコンパスを準備して、自分のポジションを把握する努力をしよう。
人材価値には社内でしか通用しない社内価値と、市場でも評価される市場価値がある。常に市場価値を意識した仕事の進め方を心がけるべきだ。
市場価値の高い人間は社内でも強い。片や、選択肢のない人間は常に足元を見られることになる。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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