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斜陽産業ほどチャンスが多い

転職を視野に入れているビジネスパーソンから、筆者はしばしばこんな言葉を耳にする。

「あの業界は斜陽なので転職の選択肢には入れていない」

できることなら成長分野に身を置きたい、という思いはよく分かるし、基本的にはそれで正しいと思う。だが、誰が見ても明らかに分かる成長分野というのは、これからキャリアを積み上げていく上では今からのこのこ入っていってもすでにおいしいところはすべて押さえられているというケースも少なからずある。

むしろ、斜陽産業の中にこそ次の成長分野の芽が隠れているというのが筆者のスタンスだ。いい機会なので、斜陽産業とキャリアについてまとめてみたい。

斜陽産業ほど新陳代謝は活発

筆者は人間の才能には、決まった手順を効率良くこなす素養と、手順も何もない中でいろいろ工夫しながら物事を前に進めていく素養の2種類あると考えている。日本企業は長い間、ずっと前者を重視してきた。明治以来、欧米の工業化に追いつけ追い越せという強固なビジネスモデルが存在していたためだ。

唯一の正答を効率良く導き出す方法を叩き込むという教育システムもそれに準じたもので、ついでに言うと、学歴が高い若者(=つまりそうした教育システムの中で回り道せずに勝ち上がってきた者)をまとめて採用するという新卒一括採用も、そうした価値観に沿ったものだ。

ただ、先進国として新興国にキャッチアップされる側に回った現在、そういう素養はあまり評価されなくなり、代わって後者の「手順抜きで前に進める素養」の方が求められる時代となっている。

要するに「正解のない答えを自分で考え、地図のない世界を自力で進む能力」だ。現在、文科省において、大学入試に論文や面接等も含める大幅な見直し案が検討されているが、それらはみな上記のような変化に沿ったものとも言えるだろう。

だが、残念なことに、当の企業自身の改革が追いついているとは言いがたい。せっかく主体的に動ける能力のある人材を採用しても、人事制度は勤続年数に応じて処遇を決める年功序列制度が色濃く残っていたり、裁量が与えられるのは40歳以降だったりという企業が今でもほとんどと言っていい。組織の意志決定権を握る人たちは、なかなか自らの権威を否定するような改革は行えないからだ。

「求める人材像と組織にマッチする人材モデルが大きく異なっている」という悩みを打ち明ける人事担当者は意外に多いものだ。採用時の評価の高い人材ほど早期に離職するという企業は、こうしたミスマッチを抱えていると見て間違いない。

そんな中、斜陽産業であればあるほど多くのチャンスが若手や中堅に与えられることになる。当たり前の話だが、守るべきビジネスモデルはすでに崩壊しているし、早期退職や人材流出などでポストも流動化しはじめている。要は業界全体として新陳代謝が活発化しているということだ。

斜陽する企業があれば台頭する企業もある

さらに言えば、いわゆる“斜陽産業”という言葉の定義自体、疑ってかかった方が良いと思う。おそらく多くの人は「そのビジネス自体が消滅しかけている業界」という風に捉えているのだろうが、現実には「ビジネスのプレイヤーが交代したりルールが変わったりするだけの話で、消費者のニーズ自体は相変わらず存在している」というケースがほとんどだ。

そして、そうした場合、既存のエスタブリッシュがリセットされるリスクがある一方で、新参者には一気に好待遇を得られるチャンスでもある。

一例を挙げるなら、出版業などは、書籍や雑誌の売上は減少してきているものの、有料メルマガやサロン運営の会社を起業する者、雑誌記者からニュースサイトの編集長に引き抜かれる者、編集者から有名人の総合プロデュースに乗り出す者など、多くの人材を輩出中のホットな業界でもある。「情報を得たい」という消費者のニーズ自体はまったく衰えておらず、単に提供媒体が変化しただけだと考えれば分かりやすいだろう。

同様にパソコンの使用者が減少すればスマホやタブレットが、居酒屋に行く人が減少すれば惣菜に力を入れたコンビニが流行ることになる。同じことはこれから多くの業界でクロスボーダー的に起きるようになるだろう。

なまじ安定した業界なら、いち会社員が独立してすぐに顧客開拓できる余地は少ないし、若くして責任あるポストにヘッドハンティングされる機会も多くはない。でも、新陳代謝の活発な業界であれば、そうしたチャンスはごろごろ転がっているわけだ。安定性だけを仕事に求めるような人には意味のない話かもしれないが、上に行きたいハイクラス人材にとっては、そういうホットな業界こそ狙い目ではないか。

最悪なのは、中途半端にビジネスモデルが安定しているように見え、それに従ってキャリアを積み重ねるしかないものの、20年くらいたってから「やっぱりダメでした、はい、じゃあゼロから頑張ってね」とリセットボタンを押されることだ。そう考えると、斜陽産業のようにリアルタイムで急激に変化しつつある業界はある意味貴重とも言える。

とはいえ、誰もがそうしたチャンスに飛び乗れるわけでもない。残念ながら、そうした変化をうまく見つけて飛び乗れる人は少数だ。では、どうすればその少数派の一人になれるのだろうか。

仕事で安定した成果が出せるのは当然としても、筆者の見たところ、普段から社外の人脈や情報に意識的にどれだけ触れていられるかがとても重要なように感じる。普段、その業界に身を置いていても、なかなかいち社内からのアングルだけでは新たな気付きを得ることは難しい。異業種や上流下流の立場から見ている人間と接することで、今まさに生まれつつあるダイナミズムに気付くことも多いはずだ。

今回のポイント
従来の日本社会では「決められた手順をきっちりこなせる素養」が重視されてきたが、現在は「手順のない中を自力で考えて前へ進む素養」が重視されるようになっている。そしてそうした素養は、斜陽産業ほど活かせるものだ。
斜陽産業には、独立したり若くして責任あるポストにヘッドハンティングされたりというチャンスが転がっている。だから「手順抜きで前に進める素養」に自信のある人材は斜陽産業だからといって避けるのはもったいない。
斜陽産業とは多くの場合、単にプレイヤーが交代するだけの話で、サービスへのニーズ自体は存在する。社外に人脈や交流を持つことで複数の視点に触れれば、そうした機会を把握できる人材になれるだろう。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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