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寿司屋で10年修業するのはバカなのか

ある著名な事業家が「寿司屋で10年間も修業する奴はバカだ」とコメントして話題となった。数カ月間で一通りの技術を教えてくれる専門のスクールがあるのだから、いまどき10年かけて寿司職人に徒弟修業するのは時間の無駄というロジックだ。

多くの人は「基礎も大事だ」「いやいや、専門学校で十分だ」といった技術論争にフォーカスしていたようだが、筆者はまったく別の観点から興味深い意見だと感じた。キャリアというものの本質を考える上でいい機会なので、簡単にまとめておこう。

寿司職人には技術より即戦力性が求められている

意外に知られていないが、寿司屋は代表的な衰退産業の一つだ。平成3年に45,000店ほどあった寿司屋は平成18年には32,000店ほどと、実に3割近くも減少している。

さらに中身を見ると「10年修業した職人」が働いているとみられる従業員数5人未満の店舗数が大きく減少している一方、チェーン店と思われる従業員数5人以上の店舗数はほぼ横ばいだ。
(総務省「平成18年事業所・企業統計調査」より)

回転寿司などの大型店舗で、修業歴10年の職人を募集しているとは思えない。実際、3カ月で寿司職人は育成できると公言し、そのための学校を運営しているのは、大手の回転寿司チェーンだ。

つまり、同じ寿司職人と言っても、即戦力コースには一定の需要がある一方で、10年修業コースは働き口が減少しているため、人材が余剰していることになる。

理由は、日本人の魚離れ、所得の減少などいろいろ考えられるが、一言でいうなら「日本人が寿司を握るという技術に対して支払うお金が減っている」ということになるだろう。こういう状況で寿司を握るという技術に高い先行投資を行うのはリスクが極めて高いというのが筆者の意見だ。

家業を継ぐ(=つまり就職先が確保されている)、理想の寿司屋になるために老舗での修業歴が不可欠、といった事情でもあれば別だが、筆者も若者に10年修業コースはおすすめしない。

グローバルキャリアから考える寿司職人の10年

海外に目を向けても同じことは言える。

欧米諸国の都市部には様々な日本食レストランが開業し、中でも寿司は代表格だが、その過半数は非日本人の握る“SUSHI”店だ。寿司ネタとしては正直あまり感心しない魚を使っていたり、ガリの代わりにキムチが出てきたりするレベルの店も少なくないが、それでも現地では受け入れられ、利益を上げているのだからバカにはできない。「あんなのはニセモノだ」というよりも実際に金を稼いでいる人間の方が偉いのが商売だ。

今から国内で10年修業して、10年後に外国で寿司店を出すのと、来年から海外のSUSHI店で10年間働き、10年後に自分のお店を持つのとでは、どちらが最終的に人材の価値が上、つまり稼げるだろうか。筆者は意外と後者なのではないかと考えている。
(そうでないなら、今頃もっと国内の寿司職人が大量に海外に流出しているはず)

このアングルは、ビジネス全般にも通じる話だ。今でも「石の上にも3年」や「10年は泥のように働け」といった昭和チックな処世訓を耳にするが、筆者はそうした考えには「それだけの期間を費やすだけの価値があるか」という視点が欠落しているように思う。

ビジネスパーソンも人ごとではない。“修業”を効率化するには?

当たり前の話だが、一つのことを10年間磨き抜くより、余力を振り分け、途中で新しいことを始めたり、いくつかの業務を経験していた方が伸びしろは圧倒的に多いし、苦手分野に見切りをつけるのは早ければ早い方がリカバリーも早い。

確かにキャリアの一貫性は重要だが、ある程度の年齢になったら、あえて横道に一歩それてキャリアの幅を広げる努力も同じくらい重要だと筆者は考える。むしろ35歳以降になると、複数の転職と担当業務の変遷を経ていた方が、そうした経験を組み合わせることでより幅のある転職が可能となるためだ。

10年間の修業といえば、初任給からスタートして30代でそこそこの処遇にたどり着くビジネスパーソンも人ごとではない。果たして30代になった後で、20代は実に有効な修業期間だったと言い切れるビジネスパーソンがどれほどいるだろうか。

筆者は、これからは「大卒文系総合職」というカテゴリーは特に、広い意味で10年修業寿司職人化するとみている。実際、東大を出て大企業で与えられる仕事は何でもこなしてきたものの、30代半ばになっていざ転職しようとすると引き合いがほとんどないという人材を、筆者は何人も知っている。彼の“修業”は非効率的だったということだ。

では、どうすれば“修業”を効率化できるか。それには、常に自分の抱えている仕事の意味を問い続ける以外にはないだろう。そこで「〇年修業して一人前」的な精神論しか出てこないようなら、たぶんその仕事は長く付き合うべき仕事ではないということだ。

今回のポイント
寿司職人という職種は、世界的にも国内的にも、10年修業型職人より即戦力性の方がニーズが高い。これはそのままビジネスの現場にも通じる話だ。
“大卒文系総合職”というカテゴリーは、これから10年修業型寿司職人と同じ運命をたどる可能性がある。
頭から「〇年は下積みが必要」的な議論は、しばしば付加価値の低い仕事を他者にやらせる場合の言い訳に過ぎない。そうした理屈しか出てこない仕事はさっさと卒業してもっと付加価値の高い仕事に取り組むべきだ。
城 繁幸(じょう しげゆき)

城 繁幸(じょう しげゆき)

人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。
人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』、 『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』、終身雇用プロ野球チームを描いた小説『それゆけ!連合ユニオンズ』等。

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